道産子、はじめて冬の美瑛を訪れる
自分と北海道との距離感はちょっと微妙だ。
両親が北海道出身なので子供の頃からよく学校の長期休暇には北海道を訪れていたし土地勘もだいぶある方だ。だけどその程度といえばそうで、両親の実家の地域を除けば、北海道をすごくよく知っているかといえばそうとも言えない。なにせ一口に北海道と言っても、すごくデカいのだ。
1日目:雪まつりとラムしゃぶピラミッド
早朝の新千歳空港に到着し、まずは北海道神宮に向かった。なぜか北海道神宮には冬に行くことが多く、数年前にも初詣の時期に来ている記憶がある。北海道神宮の良いところは、デカくて広いところだ。円山公園とくっついているので、地下鉄の駅から歩いていくと抜け感のある大きな空が目に飛び込んでくる。
この日はそこまで人も多くなく天気も良かったので、カメラ片手の散歩には最適な環境だった。足を一歩踏み出す毎に響く「ぐぐっ」という雪の音が心地よい。
北海道神宮はもともとは蝦夷地の開拓を推し進めるためにつくられたものらしい。自分の先祖も本州から北海道の地に渡り頑張ってきた人たちだったらしいので、そういった開拓に人生を捧げた名もなき偉人たちに感謝する気持ちでお参りをした。
光り輝くシブースト
円山公園からほど近いところに森彦という喫茶店がある。初めて訪れたのは大学生の頃だったので、かれこれ10年以上通っていることになるが、最近は店舗も増えて外国人観光客にも認知されているようだった。お店の外で15分ほど待つと中に入ることができた。
お昼どきだったのでチーズトーストを狙っていたのだけど、この日は売り切れだったのでシブーストとコーヒーを注文した。ちょうど窓際の席から陽が入り込んでいて、シブーストの表面をきらきらと照らし輝いていた。
いわゆる古民家喫茶店のなかでも森彦は自分にとってはすこしだけ特別な場所で、これからもきっと通い続けるんだろうなという静かな確信がある。森彦と那須のSHOZOはそれだけで旅の目的地になる魅力がある。
はじめてのさっぽろ雪まつり
大通公園に戻り、雪まつりを眺める。子供の頃から雪まつりを見るチャンスはあったはずなのだけど、両親にとっては今さらわざわざ行くようなところでもなかったようで、当時は札幌に来ても別の遊びをすることが多かった。
基本的には雪像が並んでいるどちらかといえば静のイベントだと思っていたら、夜にはプロジェクションマッピングがあったり音楽系のイベントがあったり色々な角度から魅力を作ろうとしているようだった。
大通公園は東西に長いので、じっくり見て歩くといつの間にか1時間も経ってしまっていた。きっと夜にまた来ることになるので、ほどほどに切り上げて次の予定に向かうことにした。
北大の学食に忍び込む
この日は北海道大学でお仕事の打ち合わせがあった。構内で遭難できると有名な北大だけど、2月の上旬ともなるとしっかりと雪も積もっていて色々なものを封じ込めていた。
ふと見ると放置された自転車がもうすぐ完全に雪に飲み込まれようというところだった。
北大での用事が終わると少し小腹がすいていた。打ち合わせをしていた先生にご挨拶したその足で、そのまま何食わぬ顔で学食に忍び込む。学生だった当時はなんとも思わなかったのに、今は学食にほんのりとした引力を感じている。華美でなくちょうどいい感じが好きなんだと思う。授業がない時期だったこともあって学食内もあまり混んでいなかった。
ラムしゃぶのピラミッド
札駅のあたりに戻って同行者と落ち合う。同行者も雪まつりの時期に来るのは初めてだったので、改めて大通公園へ向かい夕食の時間までぷらぷらと雪像や氷像を眺めた。この日は冬にしては暖かかった(といっても0℃くらいなのだが)ので、この時間帯ともなるとちょっと溶けてしまっていた。
晩御飯を食べに工藤羊肉店に向かう。すすきのから歩いて数分のところにある飲食店ビルの中にお店はあって、どうやら自分たちがこの日の最初のお客らしかった。ここは極薄にスライスしたラム肉をロール状に巻いて積み上げて出してくれるお店で、一時期インスタかツイッターでよく目にしていたので記憶に留めていたのだ。
カウンターに案内され、カウンターの向こうでは次々とラムがスライスされ積まれていく。なんというか、ちょっとネタバレ感があった。自分たちの見えないところで準備されて運ばれてきたらちょっと盛り上がるのかもしれないけど、目の前でせっせと積み上げているのを見ると「もうそのままでいいから頂戴!」ってなった。
藻岩山からの夜景
その後、市電で街を南下し藻岩山ロープウェイへと向かった。市電の駅そばからは無料のシャトルバスが出ていた。バス停の影からぬっと出てきた係の人に「ここから10分歩くか、15分バスを待って楽をするかどちらかです」と唐突に選択を迫られたのでちょっと笑ってしまった。
夜になりだいぶ冷え込んでいたので、15分も待つよりも歩いて体を動かしながら向かったほうがいいかなと思い出発しようとした時、すぐに目の前にシャトルバスが現れた。なんだったんだ。
なんだかんだでロープウェイ乗り場に着き、なんだかんだで展望台までたどり着いた。山頂(といってもロープウェイでわずか5分ほどなんだけど)からは札幌の中心部が一望でき、裏手にはスキー場も見えた。
2日目:冬の美瑛と小樽運河
美瑛には夏と秋には行ったことがあった。青空の下のパッチワークの路も秋色に変化した丘も綺麗だったけど、雪に包まれる美瑛の丘も格別に美しかった。
前日の夜に札幌から旭川まで最終電車で移動して、早朝には日が昇る前から美瑛に向かって車を走らせた。美瑛にはクリスマスツリーの木やケンとメリーの木など有名なスポットがあるのでそこを巡る予定を立てていたのだが、そこに向かう名も無い丘も全てが美しかった。
車を走らせている時に朝陽が昇ってきて、一帯がほのかな紫色に染まり始める。どなたかの畑だと思うんだけど、風に撫でられた雪と畝の形と周りの木々と遠くの山と、鳥の鳴き声。早起きが報われた瞬間だった。
こちらはクリスマスツリーの木。綺麗な雪のうえを、キタキツネかなにかが歩いた足跡が残っていた。
遠くで山がこちらを見ていた。
旭山動物園と旭川ラーメン
美瑛を車でぐるぐると巡った後は、日本最北の動物園、旭山動物園へとやってきた。今回はひたすらに定番を巡る旅なので、旭山動物園はクリアしておく必要がある。
なんという穏やかな寝顔だろうか。寒いからなのかじっと動かない動物も多かった。日中の気温はマイナス9℃。
旭山動物園の後は、あさひかわラーメン村へ。いってつ庵でわりとスタンダードな醤油ラーメンを頂いた。
ツアーで連れてこられたのか大勢のタイ人がラーメン村にいて、自分の席の隣もタイ人観光客だった。
話しかけてみるとえらく驚かれた(突然隣の日本人がタイ語で話しかけてくるんだからそれはそう)が、北海道にはバンコクから直行便が出ているので来やすいこと、暖かい服をバンコクで買うのは難しいので慌てて札幌で買ったこと、このあと沖縄にも行くこと(寒暖差すごいな)を教えてくれた。こちらからは那覇のおすすめレストランを幾つかお伝えした。
夜の小樽運河
ラーメンを食べた後は旭川からまた電車に乗り、札幌を通り越して小樽まで向かった。小樽は何度も来ているのに運河をきちんと見たことはなかったのでちょっと足を伸ばしてみた。
おそらく定番であろう浅草橋から小樽運河を眺めようと向かってみると、わりと観光客で賑わっていた。運河沿いを少し歩いたのちに、晩御飯のお店を近くにある出抜小路で探してみることにする。
これまでシブースト、学食めし、ラムしゃぶ、ラーメンと来ているので気分的にはお寿司なんかが良かったのだが、気がついたら天ぷら屋さんに入っていた。
入ったのは天ぷら藏谷というお店で、店主さんが一人でやっているカウンターのみのこじんまりとしたお店だった。場所柄で外国人観光客をターゲットにしたお店を想像していたら、店内はテレビが置いてあるオールドファッションな食堂スタイルでなんか良かった。テレビでは井之頭五郎が今日も何かを頬張っていた。
お腹もいっぱいになったところで札幌に戻り、ライトアップされる雪まつりを眺め散歩しつつ、ホテルへと戻ったのだった。
3日目:雪の大仏、モアイ像
最終日の朝は二条市場で朝ご飯を食べる。お目当ての食事処ながもりに着くと5組ほど並んでいたけど、15分程で入ることができた。
店内は観光客5割、地元の人5割と言う感じで、出勤前のサラリーマンもちらほらといた様に思う。ながもりはこれまでに何度か来ていていつもは焼き魚系の定食を注文しているが、今回は隣の人が食べていたのが美味しそうだったのでいくらとうにの二色丼にしてみた。
おしゃれ墓地で大仏と対面する
札幌中心部から車で少し南下したところに真駒内というエリアがある。スポーツ施設があったり大きな墓地(本当に大きい)があったりする。その真駒内滝野霊園は、中心に安藤忠雄が設計した大仏殿やモアイ像が立ち並んでいるかなりアヴァンギャルドな空間で一度行ってみたいと思っていた。
札幌市内は除雪がしっかりされているけど、真駒内の方に来ると雪がそのままの道路も多く、スキー場を走っているような道を進むことになる。この日は天気も良かったのですごくきれいな光景で気持ちの良いドライブになった。
こうして45分ほど車を走らせていると、突然目の前にモアイ像の大群が現れた。
今回の旅では随分とタイ人と縁があるのか、ここでもタイ人ツアーの団体と出会った。彼らはどんな気持ちでモアイ像を眺めていたんだろうか。
大仏は頭大仏殿と呼ばれていて、遠くから見ると大仏の頭がドームから飛び出して見える面白い形状になっている。冬はドームの上にも雪が積もっているので遠くから見ても大仏の頭があまり良く見えないので、また暖かくなってから来てみたいところ。
氷濤という言葉を初めて知る
頭大仏殿から更に南へ車を走らせ、支笏湖へ向かう。支笏湖は最北の不凍湖で水の透明度が高いことで有名だった気がする。夏場はキャンプ場があったりマス釣りができたりアウトドア遊びができるけど、冬は正直なところあまりやることがない。
ということに課題意識を持ってなのかはわからないが、冬の客寄せとして氷濤まつりというものが開催されている。支笏湖の水を骨組みに吹き付けて凍らせて柱や館を作っているようだった。このイベントで初めて氷濤という言葉を知った。
その後は札幌まで車で戻り、コロンボでカレーを食べて東京への帰路に着いたのだった。この3日間でだいぶ冬の北海道の定番スポットを巡れた気がするので、道産子なのに北海道の定番を意外と知らないという心の引っ掛かりをすこし解消できた気がする。それにしてもぐるぐると移動してばかりの旅だったなぁ。